YMO世代の気持ち -ノベル館-

YMO世代の気持ちのサブブログです。

第140話:火曜日のラブレター、QRコードの毒

火曜日。お盆休み明けの気だるさが街を覆っている。
 しかし、僕たちはその空気には染まらない。午前中、透子が作成した一通の封筒を、バイク便でデベロッパーの準備室へ送りつけた。

 宛名は『開発本部室長・葛西様』。
 中に入っているのは、一枚のカードだけ。そこにはQRコードと、短いメッセージが印刷されている。
 『8月15日、午前2時の記録。パスワードは”SILENCE”』

「……ラブレターにしては、随分と無粋だね」
 僕が苦笑すると、透子は悪戯っぽく唇を尖らせた。
「現代の果たし状よ。あのQRコードを読み込めば、彼らのスマホの中で、止まるはずのないポンプが停止し、大地が泥を吐き出す映像が再生される」

 動画はあえて全編は送っていない。一番衝撃的な「泥が噴き出す瞬間」の十五秒だけを切り取った。
 「続きを見たければ、こちらの土俵に来い」というメッセージだ。

「葛西なら、すぐに気づくわ。これがただの嫌がらせじゃなく、『お前たちののど元にナイフを突きつけた』という宣言だと」
 透子は窓の外、黒いセダンを見下ろす。
「向こうが私たちの写真を人質にしているなら、私たちは彼らの未来(工事計画)を人質にする。これで対等よ」

 午後、黒いセダンが慌ただしく走り去っていった。
 毒が回ったようだ。
 静かな図書室で、僕たちは電話が鳴るのを待った。