火曜日。お盆休み明けの気だるさが街を覆っている。
しかし、僕たちはその空気には染まらない。午前中、透子が作成した一通の封筒を、バイク便でデベロッパーの準備室へ送りつけた。
宛名は『開発本部室長・葛西様』。
中に入っているのは、一枚のカードだけ。そこにはQRコードと、短いメッセージが印刷されている。
『8月15日、午前2時の記録。パスワードは”SILENCE”』
「……ラブレターにしては、随分と無粋だね」
僕が苦笑すると、透子は悪戯っぽく唇を尖らせた。
「現代の果たし状よ。あのQRコードを読み込めば、彼らのスマホの中で、止まるはずのないポンプが停止し、大地が泥を吐き出す映像が再生される」
動画はあえて全編は送っていない。一番衝撃的な「泥が噴き出す瞬間」の十五秒だけを切り取った。
「続きを見たければ、こちらの土俵に来い」というメッセージだ。
「葛西なら、すぐに気づくわ。これがただの嫌がらせじゃなく、『お前たちののど元にナイフを突きつけた』という宣言だと」
透子は窓の外、黒いセダンを見下ろす。
「向こうが私たちの写真を人質にしているなら、私たちは彼らの未来(工事計画)を人質にする。これで対等よ」
午後、黒いセダンが慌ただしく走り去っていった。
毒が回ったようだ。
静かな図書室で、僕たちは電話が鳴るのを待った。