水曜日。
その電話は、午後三時の最も暑い盛りに鳴った。
ジリリリリ。
冷房の効かない館内で、そのベルの音だけが冷ややかな響きを持っていた。
「……はい、湊です」
受話器を取る。
『……湊さん。面白い映像を見せていただきましたよ』
葛西の声だ。前回会った時の慇懃無礼なトーンは消え、抑揚のない、まるで氷の刃のような声だった。
『あの映像が世に出れば、確かに我々は痛手を負う。しかし、それと引き換えに、貴方の大切な協力者(潮里)がどうなるか、お忘れではありませんね?』
即座に脅しをかけてくる。予想通りだ。
僕は透子が書いてくれたメモを見ながら、努めて冷静に返した。
「ええ。ですが、この映像が拡散されれば、工藤教授の鑑定書と合わせて、工事の差し止め請求が認められる可能性が高い。そうなれば、貴方のキャリアにも傷がつくのでは?」
電話の向こうで、微かな沈黙が落ちた。
組織の人間にとって、自分の失点は何よりの恐怖だ。
『……会ってお話ししましょう。明日の夜、いつもの料亭で』
「いいえ。場所はこちらが指定します」
僕は強く言った。
「明日の閉館後、この図書室で。僕たちのホームグラウンドで話をつけましょう」
『……いいでしょう』
カチャリ、と電話が切れた。
受話器を置いた手は汗でびっしょりだった。
「よく言ったわ、管理人さん」
透子が親指を立てる。
いよいよ明日、狼がこの部屋にやってくる。