YMO世代の気持ち -ノベル館-

YMO世代の気持ちのサブブログです。

第141話:電話線の向こうの氷点下

水曜日。
 その電話は、午後三時の最も暑い盛りに鳴った。
 ジリリリリ。
 冷房の効かない館内で、そのベルの音だけが冷ややかな響きを持っていた。

「……はい、湊です」
 受話器を取る。
『……湊さん。面白い映像を見せていただきましたよ』
 葛西の声だ。前回会った時の慇懃無礼なトーンは消え、抑揚のない、まるで氷の刃のような声だった。

『あの映像が世に出れば、確かに我々は痛手を負う。しかし、それと引き換えに、貴方の大切な協力者(潮里)がどうなるか、お忘れではありませんね?』
 即座に脅しをかけてくる。予想通りだ。
 僕は透子が書いてくれたメモを見ながら、努めて冷静に返した。

「ええ。ですが、この映像が拡散されれば、工藤教授の鑑定書と合わせて、工事の差し止め請求が認められる可能性が高い。そうなれば、貴方のキャリアにも傷がつくのでは?」
 電話の向こうで、微かな沈黙が落ちた。
 組織の人間にとって、自分の失点は何よりの恐怖だ。

『……会ってお話ししましょう。明日の夜、いつもの料亭で』
「いいえ。場所はこちらが指定します」
 僕は強く言った。
「明日の閉館後、この図書室で。僕たちのホームグラウンドで話をつけましょう」

 『……いいでしょう』
 カチャリ、と電話が切れた。
 受話器を置いた手は汗でびっしょりだった。
「よく言ったわ、管理人さん」
 透子が親指を立てる。
 いよいよ明日、狼がこの部屋にやってくる。