日曜日。
昨夜の「停戦協定」により、黒いセダンによる露骨な監視は消えた。
しかし、自由になったわけではない。僕たちは「何もしないこと」を約束させられたのだから。
午後、潮里さんに事の顛末を伝えるメッセージを送った。
『貴方を守るため、映像は伏せることにしました。ごめんなさい。工事を止めることはできませんでした』
返信はすぐに来た。
『謝らないでください。私は覚悟していました。……でも、これで時間が稼げました。工事現場では、あの一件以来、地下水の処理に追われて工程が遅れているはずです』
彼女は強かった。自分が人質になっているというのに、まだ戦う意志を失っていない。
『湊さん、透子さん。鳥籠の中にいても、歌うことはできます。……諦めないで』
その言葉に、胸が詰まった。
そうだ。派手な爆弾(映像)は使えなくなったけれど、僕たちにはまだ「図書室」という場所がある。
ここで静かに、しかし確実に、人々の意識を変える歌を歌うことはできるはずだ。
「……ねえ、湊くん」
透子が窓辺で、読みかけの本を閉じながら言った。
「武器が使えないなら、文化で戦うしかないわね。……秋に向けて、展示会をやりましょう」
「展示会?」
「ええ。『この街の記憶』展。昔の地図や写真を並べて、みんなに思い出してもらうの。ここがかつて、どんな土地だったのかを」
それは、白の糸(図書室)を使った、静かなるレジスタンスの提案だった。