YMO世代の気持ち -ノベル館-

YMO世代の気持ちのサブブログです。

第147話:埃の匂い、セピア色のパズル

火曜日。
 図書室の閲覧テーブルは、本の代わりに山積みの古写真とアルバムで占拠されていた。
 SNSで「昔のこの辺りの写真を探しています」と呼びかけたところ、常連さんたちが実家の押し入れをひっくり返して持ってきてくれたのだ。

「うわ、懐かしい! これ、駅前の駄菓子屋だろ?」
「こっちは、まだ川が暗渠(あんきょ)になる前だね。へえ、こんなに川幅が広かったのか」
 写真を持ってきた老人たちが、目を細めて思い出話に花を咲かせている。
 彼らの記憶の中にある「水と共にあった街」が、一枚一枚のピースとなってテーブルの上で繋がっていく。

「……すごい情報量ね」
 透子が白手袋をして、写真を慎重にスキャンしていく。
「どの写真にも、必ずと言っていいほど『水』が写ってる。用水路、井戸、湧き水での洗濯……。この街の人々にとって、水は恐怖の対象じゃなくて、生活のパートナーだった証拠よ」

 開発業者は、地下水を「排除すべき障害物」として扱っている。
 けれど、ここに暮らす人々にとっては「共に生きる友」だった。
 この価値観のズレこそが、僕たちが提示できる最大のメッセージだ。

「湊くん、この写真を見て」
 透子が差し出した一枚。昭和三十年代の七夕祭りの様子だ。
 笹飾りの向こうに、現在の建設予定地──かつての「南倉庫」が写っている。その足元は湿地帯で、葦(あし)が生い茂っているのがはっきりと見て取れた。

「これが『証拠』だよ。潮里さんの図面を裏付ける、生きた記録だ」
 僕はその写真の裏に、『提供:松代』と書かれているのを見つけた。
 街の記憶は、死んではいない。埃を払えば、こんなにも鮮やかに息を吹き返す。