木曜日。
展示用のパネルを作っている最中、ふと違和感を覚えた。
事務室のドアが、閉まりにくい。
先週まではスムーズだったのに、今日は少し持ち上げないと枠に擦れてしまう。
「……湊くん、こっちも」
透子が書架の隅でしゃがみ込んでいる。
床のフローリングに、僅かな隙間ができていた。ビー玉を置けば、ゆっくりと南の方角──工事現場の方角へ転がっていきそうな傾きだ。
背筋が凍った。
あの「泥の逆流事件」以来、工事現場では止水壁の補強工事が行われているはずだ。しかし、一度暴れた地盤は、そう簡単には落ち着かないのだろう。
地中の歪みが、じわじわと周辺に波及し、ついにこの図書室という「白の糸」をも蝕み始めている。
「……展示会、急いだほうがいいかもしれない」
透子が深刻な顔で床の隙間を撫でた。
「この建物自体が、あとどれくらい『水平』を保っていられるか分からない」
美しい過去の写真を並べている僕たちの足元で、現実の崩壊が忍び寄っている。
赤の糸(危険信号)は、目に見えない地下を通って、僕たちのすぐ真下まで来ていた。