YMO世代の気持ち -ノベル館-

YMO世代の気持ちのサブブログです。

第150話:金曜日のナポリタン、昭和の味方

金曜日。
 床の傾きに気づいて以来、不安で心が落ち着かない。
 そんな空気を察してか、透子が「今夜は懐かしい味にして、元気を出そう」と提案した。
 展示会のテーマに合わせて、メニューは『喫茶店のナポリタン』だ。

「アルデンテなんてお洒落な言葉は禁止よ。麺は茹で置きして、ブヨブヨにするのが正解なの」
 透子がパスタを規定時間より長く茹で、ザルにあけて放置する。
 具材は玉ねぎ、ピーマン、そして赤いウインナー。
 フライパンで具材を炒め、茹で置きした麺を投入し、ケチャップをたっぷりと回しかける。

「ここがポイント。ケチャップを入れてから、具材と麺だけでしっかり炒めるの。酸味を飛ばして、甘みを凝縮させるまで」
 ジュウジュウと、焦げたケチャップの香ばしい匂いが漂う。それは、子供の頃にデパートの食堂で嗅いだ、あの幸せな匂いだ。

 銀色の皿に盛り付け、粉チーズとタバスコを添える。
「……うん、これこれ!」
 フォークに巻きつけて頬張ると、甘酸っぱくて濃厚な味が口いっぱいに広がった。
 お洒落なイタリアンとは違う、日本人が作った日本のスパゲッティ。

「柔らかい麺が、逆に優しいね。緊張した胃袋を撫でてくれるみたいだ」
「でしょ? 昭和の味は、疲れた現代人の点滴みたいなものよ」
 口の周りをオレンジ色にしながら、僕たちは笑った。

 古い写真に囲まれ、古い味を食べる。
 過去は、ただ過ぎ去った時間ではない。今を支える土台だ。
 その土台が物理的に揺らいでいる今だからこそ、僕たちはこの「懐かしさ」という杭を、深く心に打ち込まなければならない。

 八月が終わる。
 来週からはいよいよ九月。展示会の開催、そして季節の変わり目と共に、物語は「秋の動乱」へと突入していく。


湊の金曜レシピ:あえての茹で置き「喫茶店の王道ナポリタン」

パスタの常識を捨てて作る、モチモチで香ばしいナポリタン。
ケチャップを「ソース」ではなく「具材」としてしっかり焼き付けるのが、お店の味に近づく最大のコツです。

【材料】(2人分) * スパゲッティ(太めがおすすめ、1.8mm以上) … 200g * 玉ねぎ … 1/2個(薄切り) * ピーマン … 2個(輪切り) * ウインナー … 4本(斜め切り) * マッシュルーム(あれば水煮) … 適量 * ケチャップ … 大さじ8(たっぷりと!) * 牛乳(または生クリーム) … 大さじ1 * バター … 10g * サラダ油 … 大さじ1 * 塩・胡椒 … 少々 * 粉チーズ、タバスコ … お好みで

【作り方】 1. パスタを表示時間より1〜2分長く茹でる。ザルに上げ、サラダ油(分量外)をまぶして30分ほど放置する(これがモチモチ食感の秘訣)。 2. フライパンにサラダ油を熱し、ウインナー、玉ねぎ、マッシュルームを炒める。 3. 具材に火が通ったら、パスタとピーマンを加える。 4. ここでケチャップを投入し、具と麺だけで強火で炒める。水分を飛ばし、ケチャップが少し焦げるくらいまで焼くことで、酸味が飛んで旨味に変わります。 5. バターと牛乳を加え、全体をまろやかに馴染ませる。塩胡椒で味を調える。 6. 器に盛り、粉チーズをかければ完成。

【湊のひと言】 「ケチャップを炒めて焦がすのがナポリタンの秘訣。酸味が旨味に変わる瞬間を見逃さないでください。昭和の喫茶店の味は、実は理にかなった調理法なのです」