日曜日。
展示会の準備は大詰めを迎えていた。パネルの配置を決め、キャプションを貼る作業に追われていると、子供たちの賑やかな声が響いた。
駄菓子屋で買ってきたスーパーボールで遊んでいるようだ。
「いくぞー!」
男の子が床にボールを叩きつける。
ポン、と跳ねた青いボールは、着地した後、コロコロと転がり始めた。
最初はゆっくりと。やがて加速して。
まるで磁石に吸い寄せられるように、部屋の南側──工事現場に面した壁際へと一直線に転がっていった。
「あはは! なんだこれ、勝手に走ってく!」
子供たちは面白がって、次々にボールを転がし始めた。
赤、黄、緑。すべてのボールが、南へ、南へと吸い込まれていく。
無邪気な笑い声の中で、僕だけが背筋に冷たい汗を流していた。
これは、ただの傾きじゃない。
先週よりも明らかに角度がきつくなっている。
地盤沈下が進行しているのだ。目には見えないスピードで、でも確実に、この建物は足元をすくわれつつある。
「……湊くん」
透子が子供たちに見えないように、そっと僕の袖を引いた。
「展示会の期間中、南側のエリアは立ち入り禁止にしましょう。『資料整理中』ってことにして」
「……ああ。床が抜けることはないと思うけど、万が一がある」
笑い声が響く平和な日曜日の午後。
けれど、床に散らばったスーパーボールは、残酷な物理法則(真実)を無言で告白していた。
この場所は、もう平らではないのだ。