YMO世代の気持ち -ノベル館-

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第154話:九月一日、嵐の中の幕開け

九月一日、火曜日。
 『この街の記憶展』の初日は、叩きつけるような雨音で幕を開けた。
 大型台風の接近に伴い、午前中から暴風警報が出ている。本来なら中止にすべき天気だが、僕たちは鍵を開けた。たとえ誰も来なくても、今日という日に開けることに意味があると思ったからだ。

 客のいない図書室。
 壁に並んだモノクロ写真の中の人々が、薄暗い部屋でじっとこちらを見つめている。
 外では風が唸り、築六十年の木造校舎のようなこの建物は、ミシミシと悲鳴を上げていた。

「……建物が、泣いてるみたい」
 透子が天井を見上げて呟く。
 雨漏りを受け止めるためのバケツが、すでに三箇所に置かれている。ポチャン、ポチャン、という音が、不規則なリズムで響く。

 午後二時。突風が窓ガラスを激しく叩いたその時、床下から「ググッ」という低い音がした。
 地震ではない。もっと重く、粘着質な音。
 まるで、建物の重みに耐えきれなくなった地面が、深いため息をついたような。

「……湊くん、今の音」
「ああ。聞いた」
 僕たちは顔を見合わせた。
 展示されている写真は「かつてここが湿地だった」ことを静かに語っている。
 そして今、その湿地が百年ぶりに目を覚まし、建物の足を掴んで引きずり込もうとしている。

 嵐の轟音にかき消されそうな図書室で、僕たちはただ、壁の古写真たちが落ちないように祈ることしかできなかった。