九月一日、火曜日。
『この街の記憶展』の初日は、叩きつけるような雨音で幕を開けた。
大型台風の接近に伴い、午前中から暴風警報が出ている。本来なら中止にすべき天気だが、僕たちは鍵を開けた。たとえ誰も来なくても、今日という日に開けることに意味があると思ったからだ。
客のいない図書室。
壁に並んだモノクロ写真の中の人々が、薄暗い部屋でじっとこちらを見つめている。
外では風が唸り、築六十年の木造校舎のようなこの建物は、ミシミシと悲鳴を上げていた。
「……建物が、泣いてるみたい」
透子が天井を見上げて呟く。
雨漏りを受け止めるためのバケツが、すでに三箇所に置かれている。ポチャン、ポチャン、という音が、不規則なリズムで響く。
午後二時。突風が窓ガラスを激しく叩いたその時、床下から「ググッ」という低い音がした。
地震ではない。もっと重く、粘着質な音。
まるで、建物の重みに耐えきれなくなった地面が、深いため息をついたような。
「……湊くん、今の音」
「ああ。聞いた」
僕たちは顔を見合わせた。
展示されている写真は「かつてここが湿地だった」ことを静かに語っている。
そして今、その湿地が百年ぶりに目を覚まし、建物の足を掴んで引きずり込もうとしている。
嵐の轟音にかき消されそうな図書室で、僕たちはただ、壁の古写真たちが落ちないように祈ることしかできなかった。