水曜日。台風は夜半に過ぎ去ったが、置き土産はあまりに大きかった。
朝、図書室へ向かう道中、僕は足元の側溝を見て息を呑んだ。
流れている水が、茶色い。
ただの泥水ではない。セメントのような粘り気のある、灰色の泥水だ。
「……見て、湊くん」
透子が工事現場の方角を指差す。
高いフェンスの下、ゲートの隙間から、その灰色の泥水が溢れ出し、公道へと流れ込んでいた。
フェンスの中からは、複数のポンプがフル稼働する音が聞こえる。ブオォォォ、という断末魔のような音だ。
「昨夜の雨で、現場が水没しかけたんだわ。慌てて排水してるけど、追いついてない」
透子の推測は正しいだろう。
本来なら地下深くに留まるべき土砂が、地下水と共に吸い上げられ、街へと垂れ流されている。
図書室に着くと、庭の植え込みが数センチ陥没しているのを見つけた。
境界線が消えている。
フェンスの中(加害者)と、外(被害者)。地下(過去)と、地上(現在)。
それらを隔てていた壁が、大量の雨水によって溶かされ、ドロドロに混ざり合い始めている。
「……写真は無事?」
「うん。湿気てはいるけど、無事だよ」
僕たちは安堵したが、足元の床が昨日よりもさらに傾いているような錯覚──いや、実感を覚えていた。