YMO世代の気持ち -ノベル館-

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第155話:水曜日の濁流、境界線が消える

水曜日。台風は夜半に過ぎ去ったが、置き土産はあまりに大きかった。
 朝、図書室へ向かう道中、僕は足元の側溝を見て息を呑んだ。
 流れている水が、茶色い。
 ただの泥水ではない。セメントのような粘り気のある、灰色の泥水だ。

「……見て、湊くん」
 透子が工事現場の方角を指差す。
 高いフェンスの下、ゲートの隙間から、その灰色の泥水が溢れ出し、公道へと流れ込んでいた。
 フェンスの中からは、複数のポンプがフル稼働する音が聞こえる。ブオォォォ、という断末魔のような音だ。

「昨夜の雨で、現場が水没しかけたんだわ。慌てて排水してるけど、追いついてない」
 透子の推測は正しいだろう。
 本来なら地下深くに留まるべき土砂が、地下水と共に吸い上げられ、街へと垂れ流されている。    図書室に着くと、庭の植え込みが数センチ陥没しているのを見つけた。
 境界線が消えている。
 フェンスの中(加害者)と、外(被害者)。地下(過去)と、地上(現在)。
 それらを隔てていた壁が、大量の雨水によって溶かされ、ドロドロに混ざり合い始めている。

「……写真は無事?」
「うん。湿気てはいるけど、無事だよ」
 僕たちは安堵したが、足元の床が昨日よりもさらに傾いているような錯覚──いや、実感を覚えていた。