YMO世代の気持ち -ノベル館-

YMO世代の気持ちのサブブログです。

第156話:傾いた額縁、3度の警告

木曜日。
 台風一過の晴天だが、図書室の中には重苦しい空気が漂っていた。
 展示パネルの一枚が、どう直しても傾いてしまうのだ。

「……おかしいな」
 僕は水平器をパネルに当てる。気泡は真ん中にある。つまり、パネルは水平だ。
 次に、水平器を柱に当てる。
 気泡が、大きく端に寄った。

「パネルが傾いてるんじゃない。建物全体が傾いてるんだ」
 僕の声が震えた。
 透子がスマホの計測アプリで床を測る。
「……傾斜、約3度。先週より確実に悪化してる」
 たかが3度と思うかもしれない。しかし、ビー玉が転がるレベルを超え、平衡感覚が鋭い人なら目眩(めまい)を感じるレベルだ。

 これは、警告だ。
 「ここから出て行け」という、大地からの退去命令。
 もしこれ以上傾けば、図書室は「危険建物」として認定され、立ち入り禁止になる。そうなれば、僕たちの拠点も、発信力も失われる。

「葛西の思う壺ね」
 透子が悔しそうに柱を叩く。
「彼らが手を下さなくても、自然現象(という名の二次災害)が私たちを追い出してくれるんだから」

 傾いた部屋で見る過去の写真は、どこか歪んで見えた。
 僕たちの足元は、もう限界に近い。
 白の糸(図書室)が、プツリと切れる音が聞こえた気がした。