飽留野市
四か所目は、峠道の三番目のカーブである。 場所の説明が難しい。峠の入口から数えて三番目、としか言いようがない。標識も、建物も、由来を示すものも何も無い。ただのカーブだ。ガードレールが少し古い。それだけである。 なぜ三番目だけなのかは、誰も知…
その取材は、怪談とは何の関係もなかった。 市の地域交通の話である。飽留野の路線バスは、市街を外れると一時間に一本か二本しかない。それがさらに減る。来年度から、旧道を通る系統の便数が半分になる。沿線には高齢の方が多い。タウン誌としては、書かな…
二か所目は、沢井原のドライブイン跡にした。 国道沿いに、看板だけが残っている。建物は窓が抜け、駐車場の白線は消えかけ、自販機の跡地に四角い日焼けが残っている。廃業したのは十年以上前だと聞いた。 地元では「出る」ということになっている。何が出…
「中村くん、夏の特集だけどね」 この人が企画書を持ってくるときは、たいてい俺の八月が決まっている。 「心霊スポット、四回でやって。週一」 「はい」 「行くのは君ね」 「はい」 断る理由が思いつかなかった。飽留野には山があり、旧道があり、廃道があ…
午前六時の飽留野は、まだ誰にも誤解されていない。 山から下りてくる空気は冷たく、国道はまだ空いている。ヘルメットを被ると、世界から音が半分持っていかれる。残った半分で物事を判断することになるのだが、俺の場合、その半分がだいたい間違っている。…